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ウスール

ウスール

ウスール(トルコ語:Usûl,Usul)は、アラビア語起源の語で、トルコ語では「方法」を意味し、音楽用語としては(太鼓の)リズム・パターンを意味する。それは例えばやかんの形をした、二つで一組の太鼓クデュム(もしくはクドゥム)Kudüm(図1)を叩いて示される。

クドゥム


図1 クデュム(もしくはクドゥム)(www.turkmusikisi.comより)


2つあるクデュムkudümの内、右クデュムkudümは左クデュムkudümよりやや大きい。そのため右側のクデュムkudümを撥(ばち。柔らかい木で出来ている。トルコ語でザフメzahmeと呼ばれる。ペルシア語ザフマzakhma「叩くあるいは傷つけるために使われるもの」に由来)で叩けば低音デュム(もしくはドゥム)dümが鳴り、左側のクデュムkudümを撥で叩けば高音テクtekが鳴る。デュムdümはまた強拍を表し、テクtekは弱拍を表す。




ユリュク・セマーイー



図2 ユリュク・セマーイーYürük Semâîと呼ばれるリズム・パターン。現在、トルコでは西洋音楽の五線譜が導入されており、通常6/8拍子で表現される。(www.turkmusikisi.comより)

譜例の上側の線に描かれた音符は、右手に持った撥によって右のクデュムkudümに打たれ(低音デュムdüm)、下側の線に描かれた音符は、左手に持った撥によって左のクデュムkudümに打たれる(高音テクtek)。

そして、ウスールusûlは単に太鼓のリズム・パターンであるだけでは無く、歌や楽器の旋律のリズムの構造を決める。下記図3はコンヤKonya(コニヤ、コニアともカナ表記される。かつてのイコニウムIconium)に本拠地を置くメヴレヴィーMevlevî教団の儀式セマーSemâで演奏される音楽(ベヤーティー・アーイーニ・シェリーフィBeyâtî Âyîn-i Şerîf'iの内、ソン・ユリュクSon Yürük)の一部の楽譜だが、旋律のリズムがウスールUsûl、ユリュク・セマーイーYürük Semâîに基づいている事が分かる。




ベヤーティー・メヴレヴィー・アーイーン

図3 ベヤーティー・アーイーニ・シェリーフィBeyâtî Âyîn-i Şerîf'iの内、ソン・ユリュクSon Yürük)の最初の部分の旋律(neyzen.comより)

ウスールusûlは詩の韻律であるアルーズarûzの考えを音楽に転用したものである。

トルコのアルーズ学(ilm’ül-arûz)はアラブ人より輸入したものであった。アルーズはもともと、アラビア語の詩の韻律に与えられた名前で、アルーズ学はアル=ハリール・イブン・アフマド・アル=ファラーヒーディーAl-khalīl Ibn Ahmad Ibn ʿamr Ibn Tamīm Al-farāhīdī Al-azdī Al-yuhmadī Al-basrī Abū ʿabd Al-rahmān(西暦718年頃オマーンで生まれ、776年から791の間にイラクのバスラで没した)によって打ち立てられた。

アラビア語には日本語やトルコ語と違って、短音節と長音節の違いが存在する(一種類の短音節「子音+短母音」とニ種類の長音節「子音+長母音または二重母音」「子音+短母音+子音」がある)。この長短の音節を様々に組み合わせる事によってアラビア語の詩の韻律が作られていた。アルーズ学は後にペルシア人とトルコ人に伝わった。ユスフ・ハス・ハージブYusuf Hass Hājibによって書かれた、トルコ文学の古い作品クタドゥグ・ビリグKutadgu Bilig「幸福に関する知識」(11世紀)には、宗教、国家、政治、教育などに対する考えと訓戒が含まれているが、そこに最初のアルーズarûzの使用が見られる。アルーズarûzは1の長さの短い音節と2の長さの長い音節(以下、短音節を∪、長音節を―によって示す)の組み合わせに基づいている。より具体的には、アルーズarûzの基本的な構成要素は、タフイラtaf' ilaと呼ばれる詩脚である。この詩脚タフイラtaf' ilaは基語と呼ばれる語(動詞)ファアラfa' alaの変化によって表現される。

トルコのアルーズarûzでは、音節の数が一つから五つにまで及ぶ様々なタフイラtaf' ilaがある(例えば、fâ [―], feûl[∪ ―], feilün [∪ ― ―], fâilâtün [― ∪ ― ―], müstef’ilâtün [― ― ∪ ― ―])。アルーズarûzは、様々なタフイラtaf' ilaの組み合わせで形成される。すなわち、例えば四つのタフイラtaf' ilaで構成される

fâilâtün fâilâtün fâilâtün fâilün(― ∪ ― ― / ― ∪ ― ― / ― ∪ ― ― / ― ∪ ―)

は三つのfâilâtün(― ∪ ― ―)と一つのfâilün(― ∪ ―)からなる。詩人ネジャーティーNecātī(?-1509)によって書かれた詩の二つの行がどのようにこのパターンに収まるかを以下に示す:

Mey ve sī her / şī ve nin lut   / fiy le bus tā   / nın da dır
Fit ne sī ā      / hir za mā nın / çeş mi fet tā  / nın da dır
― ∪ ― ―      / ― ∪ ― ―      / ― ∪ ― ―       / ― ∪ ―

同様のタフイラtaf' ilaがいくつか集まったものをバヒルbahir(詩行)と呼ぶ。

以下にトルコのアルーズarûzで使われるいくつかのバヒルbahirを、各バヒルbahirに属する最も一般的な形と共に示す。

Hezec ヘゼジュ
Mefâîlün Mefâîlün Mefâîlün Mefâîlün (4MFÂÎ)
( ∪ ― ― ― / ∪ ― ― ― / ∪ ― ― ― / ∪ ― ― ― )
Mef’ûlü Mefâîlün Mef’ûlü Mefâîlün (MEF’LN)
( ― ― ∪ / ∪ ― ― ― / ― ― ∪ / ∪ ― ― ― )
Mef’ûlü Mefâîlü Mefâîlü Feûlün (MEF)
( ― ― ∪ / ∪ ― ― ∪ / ∪ ― ― ∪ / ∪ ― ― )

Recez レジェズ
Müstef’ilün Müstef’ilün Müstef’ilün Müstef’ilün (4MF’LN)
( ― ― ∪ ― / ― ― ∪ ― / ― ― ∪ ― / ― ― ∪ ― )

Remel レメル
Fâilâtün Fâilâtün Fâilâtün Fâilün (FÂ3)
( ― ∪ ― ― / ― ∪ ― ― / ― ∪ ― ― / ― ∪ ― )
Fâilâtün Fâilâtün Fâilün (FÂ2)
( ― ∪ ― ― / ― ∪ ― ― / ― ∪ ― )
Fe(Fâ)ilâtün Feilâtün Feilâtün Feilün (Fa’lün) (FE3)
( ∪ ∪ ― ― / ∪ ∪ ― ― / ∪ ∪ ― ― / ∪ ∪ ― )
Feilâtün (Fâilâtün) Feilâtün Feilün (Fa’lün) (FE2)
( ∪ ∪ ― ― / ∪ ∪ ― ― / ∪ ∪ ― ― / ∪ ∪ ― )

Münserih ミュンセリヒ
Müstef’ilün Feûlün Müstef’ilün Feûlün (MSTEF’LN)
( ― ― ∪ ― / ∪ ― ― / ― ― ∪ ― / ∪ ― ― )

Muzârî’ ムザーリー
Mef’ûlü Fâilâtü Mefâîlü Fâilün (MEF’LÂT)
( ― ― ∪ / ― ∪ ― ∪ / ∪ ― ― ∪ / ― ∪ ― )

Müctes ミュジュテス
Mefâilün Feilâtün Mefâilün Feilün (Fa’lün) (MFÂ(FE)I)
( ∪ ― ∪ ― / ∪∪ ― ― / ∪ ― ∪ ― / ∪ ∪ ― )

Hafîf ハフィーフ
Fâilâtün (Feilâtün) Mefâilün Feilün (Fa’lün) (FÂ’MEF)
( ― ∪ ― ― / ∪ ― ∪ ― / ∪ ∪ ― )

Kâmil カーミル
Mütefâilün Feûlün Mütefâilün Feûlün (MTEF)
( ∪ ∪ ― ∪ ― / ∪ ― ― / ∪ ∪ ― ∪ ― / ∪ ― ― )

トルコのアルーズarûzで使用されるいくつかの一般的なバヒルbahirとパターン

詩にメロディーを付け歌う時、歌のリズムは詩の韻律に影響された。詩の韻律と歌のリズムには繋がりが存在するとも言えるだろう。

アルーズarûzと呼ばれる詩の韻律は長短を示すのみだが、ここに音の高低(すなわち低音デュム[もしくはドゥム]dümと高音テクtek)が加わるとウスールusûlになる。ウスールusûlは、「様々な音の長さ(長短)と高さ(高低)の拍」のひと続きから成るリズム周期として定義する事ができる。

ウスールusûlはイスタンブールの音楽学校の長を務めていたヒュセイン・サデッディン・アレルHüseyin Sadeddin Arel(1880-1955)と彼の同僚によって提唱されたトルコ音楽の音楽理論において、小さいウスール(キュチュク・ウスールKüçük Usul、15拍以下)、大きいウスール(ビュユク・ウスールBüyük Usul、16拍以上)に分類されている。ウスールusûlの種類は40~50にのぼる。

いろいろなウスールUsûl




ウスール-テュルク・アクサウ



テュルク・アクサウTürk Aksağı(www.turkmusikisi.comより)

シュレイヤSüreyyaとも言う。一周期の長さが5になる。




ウスール-ユリュク・セマーイー



ユリュク・セマーイーYürük Semâî(www.turkmusikisi.comより)

一周期の長さが6になる。ユリュクyürükはトルコ語で速いの意。セマーイーSemâîはセマーSemâより。とても良く使われるウスールusûl。




ウスール-デヴリ・ヒンディ



デヴリ・ヒンディDevr-i Hindî(www.turkmusikisi.comより)

デヴリDevr-iはアラビア語のダウルdawrより来た言葉で、円形に動くこと・旋回・回転行動・回転する・(軸の周りを)回転すること、といった意味。ヒンディHindîはインドの意。「インドの周期」。一周期の長さが7になる。3+2+2=7のリズム構造。




ウスール-ドゥエク



デュエキDüyek(www.turkmusikisi.comより)

ドゥdüはペルシア語の数詞2、イェキyekはペルシア語の数詞1の意。一周期の長さが8になる。とても良く使われるウスールusûl。




ウスール-ミュゼッメン



ミュセンメンMüsemmen、またはカタコフティKatakoftiとも。(www.turkmusikisi.comより)

一周期の長さが8になる。3+2+3=8のリズム構造。あまり使われないウスールusûl。カタコフティKatakoftiはペルシア語で米と肉の意。Çârgâh Sirtoと呼ばれる舞曲はこのウスールで作曲されている。




ウスール-アクサク



アクサクAksak(www.turkmusikisi.comより)

アクサクAksakはトルコ語で跛行(びっこをひいて行く事)の意。上側の線にある高音tekは右手の撥で左側のクデュムkudümを叩き、高音tekの音を出す事を表す。その次の高音ke(最初から数えて三打目)は左手の撥で左側のクデュムkudümを叩いて、高音であるkeの音を出す。一周期の長さが9になる。2+2+2+3=9の構造である。最後の一つの拍が最初の三つの拍と比べて1.5倍に間延びした四拍子のように考えることも出来る。とても良く使われるウスールusûl。




ウスール-エヴフェル



エウフェルEvfer(www.turkmusikisi.comより)

エウフェルEvferはアラビア語awfarからの派生で「より豊かな、豊富な」の意。一周期の長さが9になる、2+2+2+3=9のリズム構造である。アクサクAksakとは最後の部分が異なる。メヴレヴィーMevlevî教団のセマーSemâの儀式の音楽でこのウスールusûlを聞く事が出来る。儀式音楽の第ニセラームselâm(イキンジ・セラームİkinci selâm)の部分と第四セラームselâm(ドルドゥンジュ・セラームdördüncü selâm)の部分で使われる。そこではこのウスールusûlはゆっくりとしたテンポで演奏され、また第ニセラームselâm・第四セラームselâmの部分が始まる際、旋律は周期の第1拍目から始まらず、第5拍目(二度目のデュムdümの所、譜例ではdü ümになっている所)から始まる事が多い。




ウスール-ラクス・アクサウ



ラクス・アクサウRaks Aksağı(www.turkmusikisi.comより)

一周期の長さが9になる。2+3+2+2=9の構造。あまり使われないウスールusûl。タンブーリー・ムスタファ・チャウシュTanburi Mustafa Çavuş作曲のキョチェクチェKöçekçe、ドク・ジュルフュニュ・メイダナ・ゲルDök zülfünü meydana gel(マカームMakam:ヒサルブーセリクHisarbûselik、詞:アシュク・フフジAşık Hıfzi)でこのウスールusûlを聞く事が出来る。




ウスール-オイナク



オイナクOynak(www.turkmusikisi.comより)

一周期の長さが9になる。あまり使われないウスールusûl。西洋音楽の3/8拍子と3/4拍子が合体したような構造をしている。




ウスール-アクサク・セマーイー



アクサク・セマーイーAksak Semaî(www.turkmusikisi.comより)

一周期の長さが10になる。上側の線にある高音tekは右手の撥で左側のクデュムkudümを叩き、高音tekの音を出す事を表す。とても良く使われるウスールusûl。器楽曲の形式であるサズ・セマーイーSaz Semâîは四つの部分からなるが、一番目・二番目・三番目の部分で必ずこのウスールusûlが使われる。(四番目の部分は通常ユリュク・セマーイーYürük Semâî。)




ウスール-デヴリ・レヴァーン



デヴリ・レワンDevri Revan(www.turkmusikisi.comより)

メヴレヴィー・デウリ・レワンMevlevi Devri Revanとも。一周期の長さが14。3+2+2+3+2+2のリズム構造。このウスールusûlはメヴレヴィーMevlevî教団のセマーSemâの儀式の音楽で聞く事が出来る。儀式音楽の第一セラームselâm(ビリンジ・セラームBirinci selâm)の部分で使われる。


筆者:白いりんご


参考文献など

・平凡社音楽大事典「西アジア - トルコ」項(柘植元一)
・「民族音楽大集成」解説書、小泉文夫(50枚組レコード集、キングレコード、1981年3月)
・音響と音韻からみた膜鳴楽器音のトルコ語口唱歌(井土愼二、2003 年、東洋音楽学会 第八回東日本支部定例研究会、pdf)
・Relationships between Prosodic and Musical Meters in the Beste Form of Classical Turkish Music(Tolga Bektaş,2005年,Project MUSE,Asian Music: Winter/Spring 2005,pdf)

参考サイト

Türk Mûsikîsi
http://www.turkmusikisi.com/

Neyzen.com
http://www.neyzen.com/

Mevlevi Terms and Definitions
http://www.dar-al-masnavi.org/mevlevi-glossary.html

更新履歴
2010/01/30 固有名詞の読みを変更
2010/04/18 タフイラの例を示す文章を一部修正
2011/01/07 再度固有名詞の読みを変更
レゼジュ→レジェズ
ミュンセリフ→ミュンセリヒ
テュルク・アクサーウ→テュルク・アクサウ
デウリ→デヴリ
ミュゼッメン→ミュセンメン
ラクス・アクサーウ→ラクス・アクサウ

関連記事
ウスール・カタコフティKatakofti(=ミュセンメン)について
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-8.html

Turkish Music Portalの理論のページのUsulの部分の一部訳
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-16.html

小さいウスールと大きいウスール
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-18.html

珍しいウスール、イキズ・アクサク(12/8拍子)
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-25.html

ウスール、イキズ・アクサク(12/8拍子)について_その2
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-26.html

音楽用語ウスールはアラビア語アスルから
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-92.html

ウスールusulの表記
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-146.html

ウスールの詳細についての素晴らしいサイト
http://minzokuongaku822.blog122.fc2.com/blog-entry-153.html
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テーマ : 民族音楽
ジャンル : 音楽

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